3分でわかるブログ

漫画・アニメ・雑学が3分でわかるブログ

スポンサーリンク

『名づけそむ』志村志保子作のオムニバス10話【ネタバレ結末】

■タイトルと作者

『名づけそむ』志村志保子 作

■どんなテーマなのか?

『名前』に込められた思いと人間模様を描くオムニバス短編漫画集。

■巻数

全1巻(10話収録)

■各話登場人物とあらすじの紹介

name.1:家族を捨てた母親が、嫁ぐ娘への最後のプレゼント

坂野三津江:51歳、スーパーの文房具売場のパート勤務。風呂なしトイレ共同アパートに一人暮らし。趣味は花を育てること。18年前に夫と娘を捨てて駆け落ちした。

本澤 優花:三津江の娘。9歳で母に捨てられた。現在はフリーのイラストレーターをしている。3ヶ月後に結婚予定。

本澤(父):三津江の元夫。三津江が男と駆け落ちしたあと、離婚に応じて慰謝料も請求しなかった。三津江と二度と関わりたくないと思っている。


三津江の勤務先に現れた若い女性は、18年前に捨てた娘だった。娘は成長して大人になり、3ヶ月後に結婚を控えていた。

三津江は過去に男に走り、家族を捨てて離婚。だが、その男とも長くは続かなかった。以来、パートをしながら貧しいひとり暮らしをしていた。

娘は母の罪を許し、結婚式に出てほしいと願う。二度と夫と娘の人生に関われないと思っていた三津江は喜ぶが、やはり夫が会いにきて式に出てほしくないと拒絶される。

娘は再度説得しに現れるが、三津江はわざと娘の名前「優花」を「優香」と書き間違えた領収書を渡して、二度と娘が自分に関わらないように仕向ける。

それが、娘への最後のプレゼントだと信じて。三津江は心の中でひそかに娘の結婚を祝う。

 

「優花」の由来:赤ちゃんの顔を見ていた三津江が「かわいいお花が咲いたときみたいな優しい気持ちになったから」と名付けた。

name.2 男に名前を呼ばれたことがない彼氏いない歴=年齢のOL

崎岡愛子:29歳のOLで、彼氏が今までいたことがない。

鈴木リクト:愛子の上司である部長の息子で高校一年生。モモカという彼女がいる。

 

駅のホームに飛び込みそうになり、男性に「あぶない!」と止められた愛子。寝不足でふらついただけです、とごまかそうとしたが飛び込み自殺をしようとした、と注目を集めてしまう。

そこにたまたまいた愛子の上司の息子・リクトに見られてしまい、愛子は彼を呼び止める。会社のバーベキューでお互いに面識があっただけだったが、愛子は彼の口から鈴木部長にこのことが伝わるのを恐れていたからだ。

言い訳をする愛子に「あんたが生きようが死のうがどうでもいい」と言うリクトの態度に腹を立て、愛子はつい「このあとわたしが死んだら後味が悪いでしょ」と売り言葉に買い言葉で話をする。

愛子は今まで彼氏いない歴=年齢であるモテない女であること、男性に愛されたことが一度もないのに「愛子」という名前の皮肉。振り返れば、一度も男から名前で呼ばれたことさえない。

会社で席が隣の先輩を好きになったが、彼の恋人の名前は奇しくも同じ「愛子」だった。神様にとどめを刺されたような気持ちで、自分はこのまま一生誰にも愛されず名前を呼ばれることもないと絶望したのだと、リクトに話す。

リクトは別れ際に「愛子」と呼び、愛子の胸にあたたかいものが残る。

 

「愛子」の由来:子を分解すると一と了。初めから終わりまで一生愛されますように、という願いが込められている。


name.3 女子高生と妻を亡くしたおじさん

沙織:カフェでバイトしている女子高生。父親がいないのでファザコン気味であり、常連の岸野さんに憧れていた。

岸野さん:沙織のバイト先の常連さんで、3ヶ月前に奥さんを病気で亡くした。子供はいない。その後、転勤で引っ越す。

岸野春恵:岸野さんの妻。病気で亡くなったが、綺麗な女性で夫婦仲が良かった。

水田ミエ子(江子):岸野さんの妻の死後に、家に出入りしていた女。そばかすのある地味な容姿。6年後に「瀬戸山」という名字に変わっていた。

 

沙織が働くカフェの常連である岸野さんの家に、見かけない女が出入りしている、と近所の噂になっていた。岸野さんは奥さんを亡くしたばかりだった。

沙織は懐深く妻を愛していた岸野さんが、そんな不潔なことをするわけがない、と岸野さんの家を偵察に行く。そこにいたのは地味な女で、昼間からフラフラとしていた。

女は公園で肉まんを頬張りながら、足で「水田ミエ子」と地面に書く。「岸野さんはあなたみたいな人つくるような人じゃない」とつっけんどんな沙織をからかうように、水田は「大事な人を亡くしたばかりだから」余計にさみしいのだ、と告げる。

 

彼女の素性もわからないまま、岸田さんは転勤し、沙織もまたその街を去った。6年後、沙織の働くカフェで水田によく似た女が入会申込書に名前を書いた。「ミエ子」と思い込んでいたその名前は「江子」。

見方を変えれば、見えなかったものが見えてくるのだと沙織は今更ながらに気づく。

 

name.4 樹木の名前と振られた性格の悪い少年

須田柾(まさき):小学5年生。口が悪くて女子から性格が悪いと言われる。真弓が気になっている。真弓と同じ進学塾に通っていた。

嶋真弓:学級委員をやっており、喧嘩の仲裁がうまい。


須田は女は皆うるさくて馬鹿だと考えており、態度が悪く口喧嘩をしていた。その仲裁に入ってきたのが嶋真弓だった。学級委員だけあって、落ち着いた性格で真弓だけは彼にとって別格だと気になっている。

受験のために塾に通い始めた須田は、真弓と同じ塾だったので通り道の公園でよく会うようになる。公園にある「マユミ」と書かれた樹木を見て、須田は「お前と同じ名前だ」と声をかける。

それをきっかけに親しく話せた須田は「真弓」という樹木についてネットで調べて教えてやろうとするが、真弓はなぜか公園で「桂」の木のプレートを見ていた。

塾の成績優秀者の中で「向阪桂太」という名前が上位になっていて、喜ぶ真弓。それを見て、真弓の好きな男を察した須田は以降、真弓に話しかけることはなかった。

須田の名前は「柾(まさき)」で、公園の樹木と同じ名前。彼女はそれに気づいてくれなかったのだから。

 

「真弓」の由来:強くてしなやかな木。昔は弓の材料だった。

name.5 クロエの秘密

クロエ:夜のファミレスでコーヒーを飲みながら読書する女性。呼び出し名に「クロエ」と記入した。旅行が好きだと話す。

野田:ファミレスで働くバイトの女性。よく来るクロエが気になっている。

 

地方から出てきてファミレスで働く野田は、夜の時間帯のシフトでいつもやってくる黒髪の女性のことが気になっていた。

決まってひとりでコーヒーを飲みながら、同じ本を繰り返し読んでいる。たまたま店が混み合った夜に、呼び出し名に「クロエ」と書いて知った彼女の名前。忘れ物を見つけた野田は、追いかけて「クロエさん」と呼びかける。

それ以来、店で話すようになりクロエは「旅行が好き」でモロッコやアフリカを旅した話をする。アマゾン川でジャングルに入り、タンザニアでサファリをしたと嬉しそうに語るクロエ。

だがある日、クロエの元同級生たちがやってきて「あの子ひきこもりだって」と大声で話し、クロエはいたたまれずにファミレスを出て二度と戻らなかった。大好きな本を残して、野田がその本を見ると世界を股にかけたフランス女性「クロエ」の冒険譚だった。

name.6 「小春」が嫌いな姑

聡子:一也の母親で、見合いで結婚した夫と別れて女で一つで育てた。高校の教師をしていた。

一也:聡子の一人息子で、結婚相手の深沢小春を母親に引き合わせる。

深沢小春:事務の仕事をしており、友人の紹介で一也と知り合った。

笹塚小春:元夫の幼馴染で、離婚の原因になった女。

 

聡子の一人息子・一也が連れてきたのは深沢小春という女性だった。「小春」という名前を聞いて驚いたのは、元夫の浮気相手の名前も「小春」だったから。

「小春」は夫の幼馴染で、奇跡の再会を果たして一緒になりたいから別れてほしい、とふたりで土下座をした。離婚後、女手ひとつで育て上げた息子を、同じ「小春」に奪われるとは。

息子の好きになった女性に恨みはないが、「小春」という名前に憎しみを感じずにはいられない。

小春はある日、聡子に渡した名刺の「小春」の部分が塗りつぶされているのを発見する。そして、元夫が亡くなったという連絡がきて、小春は奥さんの名前が「小春」だと知り、その理由を察する。

聡子は名前が嫌いだから、息子と別れてほしいと迫るが、小春は「嫁いびりでどうでしょうか」と提案し、それで手を打つ。

 

「小春」の由来:あたたかい11月の小春日和に生まれたから。


name.7 産むか産まないか

なつき:中卒で、17歳で家出同然に東京に出てきた。両親とは音信不通。軽い男と付き合ってみごもってしまう。

なつきの彼氏:なつきが付き合っていたつもりの男。子供ができたと聞いて青ざめ逃げた。

 

なつきは彼氏と思っていた男に妊娠を告げる。男はそもそもつきあっているつもりはないし、本当に自分の子かと疑ったので、なつきはドリンクをぶつけて別れた。

病院で処置してもらえばいい、保険はきかないから偽名で十分だと婦人科クリニックの問診票に適当にでっちあげた「沢木玉緒」という名前を書き込む。そして「中絶希望」にして提出する前に、自分が嫌になって飛び出す。

途中、妊婦とぶつかって名前を見られ「いい名前だ」と褒められその由来を聞く。「玉緒」は命の意味がある、と知って、なつきは問診票に「生みたい」と書き直す。

 

「玉緒」の由来:魂を体につなぎとめる紐。

name.8 カッコイイ幼馴染の女の子

梶ひまり:転校生の恵を気に入り、友達になった。恵に執着している。

瀬崎恵(めぐみ):ひまりと同じマンションに引っ越ししてきた幼馴染の間柄。「めぐみ」が本来の名前だがひまりが「けい」と呼び方を決めた。料理とお菓子づくりが趣味。

 

小学生のときからの幼馴染である恵から、結婚すると聞いたひまり。小学生の頃に同じマンションに引っ越してきた恵とは親友でいつも一緒だった。

背が高くてカッコイイから「めぐみ」じゃなく「けい」って呼んでもいい?

それ以来、恵を「けい」と呼んで、ひまりは好きな男子の気をひくためのダシにしたり、自分と比べて「男らしい」と恵に勝手にかっこよさを押し付けていた。

恵に彼氏ができて離れそうになると縛り付け、自分勝手に恵を利用してきたひまりは、本当は恵がかっこいい系の女性ではなくかわいらしい女性であるとわかっていた。

恵の結婚を機にひまりは「おめでとう、めぐみ」と、本来の名前で三回呼び、執着を手放した。

name.9 自分を好きでいられる名前

長谷部律美:28歳、幼い頃から生真面目な性格だった。高校では音楽部で部長をしていた。会社では主任にいじめられて辞めた。彼氏との結婚話も流れて別れる。流産して入院した姉の子供の面倒を見る。

森(浜野):律美の高校の部活のときの後輩。おしゃべり好きで落ち着かない女の子だった。大人になって律美と再会し、結婚して姓が「浜野」になった。

 

律美は会社を辞め、彼氏とも分かれて実家でぶらぶらしていたが、入院中の姉に代わって4歳の隼人の面倒を見る。幼稚園の送り迎えをしていると、高校のときの部活の後輩である森、改め結婚した浜野と再会した。

浜野には娘がいて、幼稚園で律美に会うと気まずそうに逃げ出すようになる。律美は会社でも「いろいろうるさい」ときちんと真面目にやろうとしていることを責められ、上司からもいじめられたことや、彼氏が「おまえといると疲れる」と堅苦しい律美の性格にうんざりしたことを思い出す。

愚痴一つ言わずに頑張ってきただけなのに、それが周囲を疲れさせて嫌われる自分に落ち込むが、浜野が自分の娘に「律美」と名付けていたことを知る。

浜野が自分に憧れて「部長みたいな人になってほしい」と娘に名付けたとわかり、律美の心は救われる。


「律美」の由来:物事を正し、まっすぐに進む。自分を律する美しい姿


name.10 再婚男性の連れ子の名前

長沼十和子:34歳、営業事務の仕事をした縁で由人と知り合い、プロポーズされた。お腹に彼の子がいる。

小松川由人:4年前に妻と死別した。優しくて人がいい。由希は妻の連れ子で血がつながっていない。

小松川由希:23歳、由人の義理の娘。小説家志望で編集の仕事をしている。

 

十和子は夢見た由人からのプロポーズを受けて、彼の娘と会うことになる。由人は4年前に先妻を亡くしていた。小松川由希と会ってみると、十和子をみてため息をつかれてしまう。

十和子は亡くなった母親のせいで自分を拒否しているのかと聞くが、由希は母親はヒステリーの毒親で死んでも泣かなかったと話す。そして由人に初めて会った10歳のときに同じ「由」の字が名前にあると喜んだ新しい父親への慕情を語った。

由希は十和子のバッグの中にあった母子健康手帳から、結婚の理由を察した。生まれてきた子には「貴由」と「由」の字がつけられて、いい名前だと祝福する由希。だが、小説の新人賞で使われたペンネーム「小松川 希」には「由」の字がなかった。

■コメント

読んだ後に切なさがこみあげてくるような「名前」にまつわる物語。ときには痛みを感じるような話もあれば、心が温まる優しい話が交差しています。

「名前は子供への最初のプレゼントだとはよく言ったもんね」という第一話の母親の言葉どおりに、名前は親から子への最初のプレゼントです。

名前に込められた願いを紐解きながら、読者もまた自分の名前に込めた親の思いを感じ取れるのではないでしょうか。

■作品への評価

全部で10話の物語はまさに『珠玉の短編集』です。「名前」という呪いにも祝福にもなる文字のうえに、さまざまな人間の人生が通り過ぎる、文学のような作品。

ご都合主義的な感動ではなく、あとからじんわりとくる優しさに心がふるえる漫画でした。

 

こんな感想も書いています

3pun.hatenablog.jp

 

スポンサーリンク